勉強の方向性(論文編)

 論文の成績を上げるにはどうすればよかったのでしょうか。

基本知識をたたき込む

 今年の刑訴では、相変わらず伝聞証拠の理解が問われました。捜査報告書の証拠能力の有無です。
 僕はあろうことか、ここで捜査報告書は非伝聞だと結論づけました。捜査報告書が非伝聞!試験委員も呆れかえったことでしょう。非供述的用法に供するのならば(領収書とか)、書面が非伝聞という結論もあり得ますが、捜査報告書から供述内容を取り除いたら何も残りません。まったくの無価値ですし、これを非供述的用法に供することは不可能です。捜査報告書は伝聞証拠にあたる→伝聞例外にあたらないか、という流れで議論すべきでした。
 ちなみに、こういうことを事前に勉強していなかったというわけではありません。じっくり考えられれば、上述した正解に至ることは十分可能だったと思います。
 しかし、本番では時間がありませんし、緊張もしています。落ち着いた状態で問題に向き合うことは非常に困難です。落ち着ければ言うことはありませんが、落ち着けない場合も想定しておかなければなりません。落ち着けない場合は、頭の回転が鈍り、普段なら簡単に超えられるハードルにつまずいてしまったりするわけです。上述したミスはこの典型です。
 ではどうすればいいかというと、基本知識を徹底的にたたき込むことです。ハードルはハードルだからつまずくのであって、ハードルと言うに値しないほどの問題であれば、落ち着きを失ったとしても簡単に対応できます。そのためには、基本知識を徹底的に押さえ、脊髄反射で問題に対応できるようにしておかなければなりません。捜査報告書→伝聞証拠!ということを、一片の疑問もなく確信を持って答えられるようにしておくことが大切です。伝聞証拠は複雑で混乱しやすいので、特にこうした姿勢が求められます。


 一方、他の科目にもこれはあてはまると思います。試験では応用問題が問われるわけですが、ほとんどが未知の問題であるため、予め論証を用意しておくことなど不可能です。ではどうするかというと、基本知識を確実に理解しておいて、それを論理的に組み立てて論証していきます。組み立て方にはその人なりのオリジナリティが出ますが、論理的でありさえすれば問題はありません。しかし、組み立ての基礎となるパーツの部分、基礎知識の部分の理解がおろそかだと、間違いを書いてしまったり、組み立てに時間がかかったりします。こうなると厄介ですので、やはり基礎知識の徹底的な理解が重要です。


 僕の場合、ここがまだまだおろそかだったということです。定評ある基本書・論文・判例集をきちんと読むという、基礎的なインプットをもっと厳密に行うべきでした。

答練をする

 基礎知識を論理的に組み立てていくのは難しいです。そこで、答案練習をして組み立ての練習をした方がいいと思います。
 僕はほぼ毎日一通は答案を書いていましたが、これは正解でした。組み立ての練習になることは言わずもがな、欠けている基本知識が一発で明らかになるので、知識の穴を潰すことにも役立ちます。思考過程をわかりやすい日本語で表現することができるようにもなりますし、字がきれいなまま素速く書くことができるようにもなります。本番では可能な限り事実を拾って評価することが求められますので、素速く答案を書けるようになることはとても大切です。

勉強会をする

 自分の組み立てた論理が矛盾していないかどうかを検証しないと不安ですよね。そこで、勉強会を開催することをオススメします。勉強会のメンバーに、矛盾点を指摘してもらうのです。みんな自分の答案が一番好きなので、セルフチェックではなかなか矛盾点を発見することはできません。メンバーからの客観的な意見を仰ぎましょう。
 納得できない場合は、その場で議論すればいいわけです。互いに理由をつけて話し合うので、それ自体が論理的思考力を身に付けるためのトレーニングになります。最終的に一応の解決を見れば、矛盾点の検証も達成したことになるため、まさに一石二鳥ですよね。相手の答案にも同じことをしてあげれば、またもや論理的思考力が鍛えられ、非常に有意義です。
 さらには、勉強会のために友達同士で集まること自体、情報交換の契機として非常に有益です。受験生はともすれば、自習室にこもりきりになって情報から取り残されることもありますからね。司法試験では、勉強の方向性を誤ることなく、正しい波に乗って粛々と勉強を続けていくことが大切ですので、情報をこまめにアップデートする必要性は極めて高いです。手段は何でもいいのですが、勉強会が手っ取り早いと思います。


 というわけで、いいことだらけなのが勉強会です。僕は2つの勉強会に参加していましたが、どちらもとても勉強になりました。
 なお、いい勉強会にするために意識していたのは、以下の3つです。

 
 1 メンバーは少人数とする
 2 実戦形式の答練とする(時間制限有り、資料参照なし)
 3 発言を遠慮しないメンバー構成とする


 まず、メンバーが多いと議論がやりづらいです。メンバー間の距離が物理的に離れてしまいますし、多人数の意見を把握するのも一苦労でかなり疲れます。また、多人数だと勉強会としての各種意思決定が困難になりがちですし、箱もそれなりに大きなものをとらなければならなくなるので、面倒です。答案添削にも過度に時間がかかることになりますしね(同じ問題なので論理的思考の訓練にも限界がある)。その割にメリットはあまりないので、多人数にすることはオススメできません。最大で5人がせいぜいではないでしょうか。他方、2人というのも議論が煮詰まりがちですので、3人から5人が適切な人数だと思います。
 そして、実戦形式の方が、本番の練習になるため有意義です。本番では、時間がなかったり、知識をど忘れしたときにどう切り抜けるか、ということが極めて重要ですので、実戦形式でなければ答練の意義はかなり薄れてしまいます。また、時間を区切ると、ダラダラ勉強することを防ぐことができますので、そういう意味でもオススメです。
 最後にメンバー構成ですが、ここはかなり重要です。議論が活発でなければ、勉強会の恩恵を十分に受けることができないからです。疑問点をどんどん指摘してくれる人、反論しても真摯に受け止めてくれる人を誘いましょう。無知が一番危険ですので、問題のある答案をスルーしてしまう勉強会にだけはしたくないところです。こうした素質がある人は、すぐに他の勉強会に誘われてしまうので、早めに勧誘しておいた方がいいですね。ローの最終学年になると、みんな新司法試験を意識し始めますので、最終学年直前の春休みあたりに結成しておくのが最適だと思います。いい人が複数いる僥倖な場合もあるかとは思いますが、少人数であることもかなり重要ですので、そこは割り切って、勧誘を諦めるということもまた必要です。縁がありそうなら、違う勉強会を新たに結成するのも手です。
 巡り合わせというところも大きいですが、いい勉強会を結成することには敏感であるべきだと思います。