勉強の方向性(択一編)

 勉強時間はこれ以上増やせません。それでは、勉強内容の改善により、点数アップを図ることはできたのでしょうか。この点について、まずは択一試験に関して考察してみたいと思います。

現場の集中力と刑訴

 択一は259点でした。合格者平均点くらいでしょうか。
 公法系、民事系はそれなりにできましたが、刑事系が足を引っ張りました。受験中の小さな事件により、刑事系から集中力が減退してしまったこと、刑訴の手続の流れを十分に把握していなかったことが敗因だと考えています。


 集中力については、勉強内容と言うよりは、心構えの問題ですね。小さなことで動じない心の強さ、プレッシャーをはねのける力が求められています。この辺りは、高得点を狙うという気概をどれだけ強く持てるかにかかってきます。敵から逃げる姿勢ではなく、敵を倒す姿勢でかかる、という感じでしょうか。


 刑訴については、手続の流れをもっときちんと押さえて、刑訴的リーガル・マインドを体得しておくべきでした。択一の問題は、ほとんどが知識問題ですが、リーガル・マインドを生かして現場思考で取り組むべき問題もあります。こうした問題に的確に対応できなかったのが敗因です。ここは判例六法の読み込みだけでは対応しきれないところですので、「刑事訴訟第一審手続の解説」(法曹会)をもっと読み込むなどの対策をしておくべきでした。

 
 このような対策を通じて、せめて刑事系の点数を10点ほどアップさせたかったですね。択一の点数は50%が総合点に反映されますので(http://www.moj.go.jp/content/000006493.pdf)、これだけでけっこう順位が上がります。僕の場合は、50番くらい上がることになるので、択一の10点は全く侮れません。

択一問題集のススメ

 択一対策の主軸となっていたのは、択一問題集(タクティクス)と判例六法です。


 タクティクスは全科目3周しました。肢別本を使っている人もいましたが、個人的にはタクティクスのような実践的な問題集をお薦めします。肢別本では知識の確認をすることはできますが、問題慣れすることはできないからです。本試験では、肢ごとに正誤を正確に判別できることは稀で、むしろ「1の肢より2の肢の方が正しそう」みたいな感じで、肢と肢との比較により正解を導くパターンが多いです。このパターンに対応するための訓練は、肢別本では不可能です。肢別本はこの点がネックだと考えています。
 また、実戦形式で勉強する方が、正答率アップという成果を認識できるため、より生き生きと勉強に取り組むことができます。何より、点数アップという至上目的に照準を合わせやすくなるのが大きいですね。肢別本でも正答率は観念できますが、択一問題形式ではないので、それがそのまま本試験での正答率に影響するかという点については不透明な感が否めず、勉強の成果を実感することがやや困難です。その点、実戦形式ならそのような問題はないので、正答率アップ=本番での点数アップという図式で、成長を簡単に実感できます。
 また、僕はこの点をより強調するため、タクティクスの3週目では、1時間以内に30問を一気に解き、そこから一度に答え合わせをして正答率を確かめる、という勉強をしていました。これなら、1問ごとに解答・解説を確かめるよりも、より本試験らしい気分で勉強をすることができます。スピード感があるので、精神的疲労が溜まりにくいという利点も見逃せません。

判例六法

 判例六法ですが、個人的にはマストアイテムです。択一では条文が最も重要で、次点が判例という感じです。学説はほとんど必要ありません。そして、判例六法は、条文と重要判例のみを掲載しているので、択一プロパーの教材として非常に優れています。
 僕は、タクティクスで間違えた問題に関する条文・判例をマーカーで強調し、あるいは枠外に書き込むなどして、判例六法に択一知識を集約していきました。そして、マークした条文・判例、書き込んだメモを中心にして判例六法を素読していきました。
 判例六法の読み込みは苦痛の一言ですが、何回か回すことで、かなり択一知識を詰め込むことができます。特に判例は、学者がコンパクトにまとめてくれていますので、択一問題で正誤を判断する程度のレベルであれば、判例六法の知識をきちんと把握するだけで基本的には十分です。百選すら必要ないかもしれません。まずは判例の結論を押さえること、次に規範を押さえることが重要になってきます。判例六法では、原則として、判例の基礎となる事実関係が記載されていませんが、事実関係が択一問題で問われることなどほとんどないので、判例六法レベルの知識で選択肢の正誤の判断はできます。

憲法の特異性

 ただし、憲法だけは例外です。細かな論理構成、事実関係、少数意見の内容などが問われることがあります。これは判例六法では対応が困難なので、百選を読み込まなければなりません。できればケースブックなどを通じて原文をじっくり読んだ方がいいですが、なかなか時間はとれませんよね。そういうのは2年次の、ある程度時間がある内に取り組んでおいて、直前期はともかく百選の知識を押さえることを優先した方がいいと思います。
 そして、憲法では重判も重要です。他の科目では、重判レベルの判例については、そうした判例の存在を知っているかどうか、次に判例の結論を知っているかどうかが問われる程度ですが、憲法は違います。判例の論理構成、少数意見の内容の把握まで問われます。面倒くさいこと山の如しですが、ここは何とか時間をとって対策すべきだと思います。他の選択肢との比較で乗り切れるレベルではない問題すら出題されます。

総括

 総括すると、択一問題集を解く、間違えたところを判例六法にマークする、判例六法を素読する、の繰り返しが基本線です。さらに手続法については、手続の流れを押さえるという実務的視点を体得することが必要ですね。
 択一対策は無味乾燥で、苦痛です。好きな人なら問題ないですが、嫌いな人には拷問みたいなものです。だからこそ、問題形式を取り入れたり、一日中択一対策をすることがないような勉強計画を立てるなどして、なんとか継続できるような仕組みを作ることが大切だと思います。