乙一「The Book」を読みました①

乙一による「ジョジョの奇妙な冒険―第4部―」のノベライズ作品です。
僕はジョジョでは第4部が一番好きであるばかりか、乙一の大ファンでもあります。「The Book」はその合わせ技一本ということで、読む前から否が応にも期待が高まっていました。


そして、実際に素晴らしい出来でした。

乙一と第4部のベストタッグ

第4部はジョジョでは珍しく、急転直下な展開が少ない物語です。
杜王町を唯一の舞台とし、そこに住むスタンド使いとの邂逅をたんたんと綴っていきます。
また、登場人物が杜王町の住人に異物として認識されることもありません。人々が普段どおりの生活を営む中、ひっそりと戦いが繰り広げられていきます。住人を巻き込んだ大規模な戦闘が起こることは皆無です。
ボスが吉良吉影のような人物であることも、第4部のこのような性格を象徴したものといえます。


そして作者の乙一の作風ですが、これが第4部の雰囲気と酷似しています。
典型例は「GOTH」です。異常者である主人公と、他のいろいろな異常者との邂逅を綴る物語ですが、これが第4部の雰囲気と酷似しています。
というか、第4部の影響するところ大だと思います。乙一の荒木先生に対するリスペクトはすごいものがありますし。
こういう作風なので、第4部をノベライズするには最適の人材といえます。

敵視点からの主人公サイドの観察

当然のことですが、漫画版では主人公である仗助の視点から物語が繰り広げられることがほとんどです。そのため、客観的に仗助たちを観察する機会というのはそれほど多くありません。
一方、「The Book」では、主人公が仗助らではなく、蓮見琢馬というオリジナルキャラクターです。彼が仗助らと交戦することになるので、それを通じて敵視点からの仗助らの姿を眺めることが出来ます。
これがかなり新鮮です。億泰の能力が敵にとってはかなり恐ろしい存在であることや、仗助の圧倒的パワーをある程度客観的に感じることが出来ます。


もちろん、漫画版でもこうした機会がなかったわけではありません。実際、吉良吉影とのラストバトルなどは、吉良視点で描かれることも多かったです。
ただ、その場合もあくまで主人公は仗助なので、その状況にいたるずっと以前、すなわち吉良の生い立ちやそれにともなう内面描写、背景が深く描かれていたわけではありません。
この点、「The Book」では蓮見琢馬が主人公であるがゆえに、これらが比較的詳しく描かれています。これにより、読者は蓮見琢馬へ容易に感情移入でき、あたかも自分が仗助や億泰らによってスタンド攻撃を受けていると感じることができます。これは、漫画版ではなかなか表現出来なかった点で、貴重といえます。


(時間がないのでいったん切り上げます)