∀ガンダム:第44話「敵、新たなり」

 作画といい、物語の濃密さといい、まさに神回と呼ぶにふさわしい回です。


 アグリッパとの議論がクライマックスに。ディアナ・カウンターにスパイを潜り込ませたことを指摘されても、まったく悪びれるところがありません。ディアナを前にして、なかなか尊大な態度です。アグリッパとしては、地球帰還作戦は「百害あって一利なし」の作戦なので、スパイを潜り込ませてこれを頓挫させようとすることは、完全に善なる行動だということになります。
 しかし、作戦を頓挫すさせるにとどまるならまだしも、ディアナ本人の命を狙ったのはどうやって正当化するのでしょうか。コレンを送り込んで戦況をめちゃくちゃにするのはいいです。しかしテテスを送り込んで、ディアナを暗殺させようとするのはどう考えてもやりすぎでしょう。まぁ、ディアナは死ぬまで地球帰還作戦を諦めないでしょうし、これをきっちり頓挫させるには、ディアナを暗殺するしかないのかもしれませんが…。


 黒歴史の映像を見たゲンガナムの市民が、暴動を始めてしまいました。市民に闘争本能が芽生えたことを嘆くアグリッパ。彼はとにかく闘争本能を恐れています。ギンガナム隊のようなやばい組織ですら、一度も実戦を経験していないような世界ですから、闘争本能が当たり前に存在している地球人とは考え方が根本的に違うのかもしれません。


 議論に折り合いがつかないことがわかり、ディアナは実力行使に出ます。ナイフでアグリッパを殺そうとしますが、なんとミドガルドが先制してアグリッパを銃殺。アグリッパが月のシステムにとって有害だと判断したからだそうですが、なぜ有害なのかは実はよくわかりません。これまで、月の市民はそれなりに平和に暮らすことができていたので、アグリッパの言うことにも理由がないわけではないのです。地球帰還作戦にしても、ディアナの個人的な願望のために行われているところが否定できないので、ムーンレイスの総意として直ちに正当化されるものではありません。
 キエルとしては、ムーンレイスがメンテナー家の管理の下で、永遠に生きられることはありえない、だから遅かれ早かれムーンレイスの意識革命をしなければならないということみたいです。地球の文明もそのうち発達して、月に侵略者としてやってくることもありえるでしょうしね。アグリッパとしては、そのときのためにギンガナム家があるらしいですが、ムーンレイスに侵略の事実を完全に隠蔽することはできないでしょうし、やはり遅かれ早かれ闘争本能は芽生えてしまいそうですね。そうすると、地球帰還作戦にもそれなりに意味があるようにも思われます。


 ミドガルドはディアナをも銃殺しようとしますが、リリが機転を利かせてこれを回避。ミドガルドを取り押さえます。リリは本当にどうしたんでしょうね。ディアナをいじめていたころのつまらないリリとは大違いです。キエルをはじめとして、キャラクターがどんどん成長していきます。


 ミドガルドは隙を見て車を奪い、ジャンダルムに逃げ込んで白の宮殿を攻撃しようとします。ムーンレイスとは思えない蛮行です。言動もどんどん理解できないものになっていきますし、相当混乱しているようです。激しい攻撃を加えますが、ホワイトドール月光蝶システムを発動し、これを完全に押さえ込んでしまいました。そのまま、ハリーがミドガルドを処刑して終了。本気のホワイトドールには誰も勝てません。


 最後は、ディアナの演説で終了。人の生と死のある生き方を強調します。冬眠システムへの強烈なアンチテーゼですが、市民にとってはどのように受け止められるのでしょうか。ムーンレイスも、みんながみんな冬眠に入るわけではないので、あまりピンとこない人もいるかもしれませんね。しかしながら、ディアナには持ち前のカリスマ性がありますので、なんとなくその方がいいんだ、くらいの感覚で市民は受け止めてくれそうです。これでまた、地球帰還作戦を進めることができますね。


 今回は内容が濃く、大満足の回でした。