ネガティブ感想の是非

http://d.hatena.ne.jp/banana-cat/20080320/1205978624
http://d.hatena.ne.jp/furan/20080321/1206070603
http://d.hatena.ne.jp/kaien/20080325/p1
http://kill.g.hatena.ne.jp/xx-internet/



ネガティブ感想の是非に関する議論が盛んです。
僕も上記のサイトを拝読して、いろいろ思うところがあったのでここで記してみます。
以下では、ネガティブ感想の問題点を挙げ、それを中心にして考えていきます。

1. 役に立たない

 なぜなら、現在、1年間に約7万冊の本が出版されているといわれているからです。「Something Orange」のようなサイトを訪れる読者は、この7万冊の蓄積のなかから読むべき本をさがそうとして訪れていると考えてもいいでしょう。

 そのようなとき、「つまらなかった」感想はどのように役に立つでしょうか? 仮にその意見が正しく、信頼できるものだったとしても、あまり役に立たないのではないでしょうか。

 だって、7万冊のなかから読むに値しない1冊を取り除く意味しかないわけですから。

 7万冊から読むべきではない本を1冊1冊取り除いていけば、最後には読むべき本だけがのこるかもしれませんが、それはあまりに迂遠です。

 最初から真にすぐれた本を見つけ出して薦めることのほうが合理的である、とぼくは考えます。

                            Something Orangeさん


ここでは、①ネガティブ感想は本当に役に立たないのか、という論点と、②そもそも役に立つ必要があるのか、という二つの論点があります。
ちなみに、「役に立つ」というのは、専ら「購入すべき書籍の選別」という点に求められています。


①の論点に関して、上記のサイトでは否定的な見解がとられています。
もっとも、これは全ジャンルの書籍を選別の母体として据えたうえでの意見であることに注意する必要があります。
実際のところ、ジャンルに関してはサイトごとにカラーがあり、感想が及ぶ範囲も相当に限定されることになります(少なくとも7万冊全てを射程範囲にいれたサイトというのは個人では存在しないでしょう)。読者もそうしたカラーの存在ゆえに、そのサイトに足を運ぶことになると思います。
そうすると、ネガティブ感想がもたらす効用というのも、あながち小さなものではなくなってきます。
例えばジャンプ感想サイトでは、感想といえば基本的にはジャンプ感想のことを指し、読者もジャンプ感想を読むことを主な目的としてサイトにやってきます。こうした場では、選別の母体はジャンプで連載されている漫画に限定され(だいたい20作品程度)、ネガティブ感想の効用もそう低いものではなくなってきます。


また、ポジティブ感想の中にネガティブ感想が存在することによって、ポジティブ感想の信憑性が高まるということもありえます。
例えば、何を食べても「おいしい」としかいわない人の味覚はあまり参考になりません。「うまい」と「まずい」を正しく峻別することではじめて、その人がしっかり吟味して評価を下しているんだなという信頼が生まれます。「まずい」の存在によって「うまい」という評価が際立つわけです。
こうしてみると、ネガティブ感想も十分「購入すべき書籍の選別」に寄与しているといえます。



次に②の論点についてですが、そもそも感想の存在意義というのは「購入すべき書籍の選別」にしかないのでしょうか。
僕は、書評サイト(もちろんジャンプ感想サイトを含みます)には購入すべき書籍の選別のために訪れることもありますが、それと同じくらい、すでに読み終わった書籍に関する感想を読むために訪れることもあります。
これはどういうことかというと、自分と同じような感想をもった人間がどれくらいいるのかが知りたいんですね。あるいは、自分とは違った感想をもった人間の意見を聞いてみたい。
こういう嗜好をもつ人間がどれくらいいるのかはわかりませんが、こういう人間にとっては、ネガティブ感想が放逐されるととても困るんですね。なぜなら、自分がある作品に対してネガティブな印象をもった場合に、書評サイト全体がポジティブ感想で統一されては上記のような行動をとることができなくなるからです。
こうしてみると、仮にネガティブ感想が「購入すべき書籍の選別」の役に立たないとしても、ネガティブ感想にはそれとは別の固有の価値がありえ、それゆえに存在意義を見出すことができます。


2. いやな気分になる


ネガティブ感想を読むことで、不快な気分になる人が出てくるかもしれません。その作品のファンが典型例ですね。
また、ファンでなくとも、ネガティブ感想が積み重ねられることによって、サイト全体の雰囲気がまさにネガティブな状態になってしまい、読者の居心地が悪くなってしまうこともあるかもしれません。


上記のような弊害は確かに考えられることで、ネガティブ感想の事実上の問題点といっていいと思います。
もっとも、サイトを訪れる全読者に不快感を与えないというのはおよそ非現実的なことですし、感想を書くことで結果的にいやな気分になる読者が現れてもそれは仕方ないんじゃないかな、とも思います。ネガティブ感想を書かないことでその絶対数は相当に低下させることが可能でしょうが、記事を読んで不快な気分になることを防止するという観点からは、記事を書かないことが一貫するはずであって、両者は程度の問題に過ぎません。
後者がとり得ない以上、ネガティブ感想を禁ずることを線引き格別必要でないとする合理的な根拠は見出しにくいです。


サイト全体の雰囲気悪化は、これはもはやサイトのカラーとして認知するより他ないですね。
ネガティブ感想を禁じるのはが必要でないというのはパターナリスティックな制約に過ぎず、一般的に正当性をもつとはいえないと思います。



というわけで、僕はネガティブ感想の存在には肯定的です。
一般的にはどうなんでしょうね><



※「禁じる」という言葉は語弊がありましたので、事後的ではありますが改めさせていただきました。